光の教会 安藤忠雄の現場 平松剛【建築本レビュー】

  • 2019年2月20日
  • 2019年8月15日
  • 建築本
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筆者は構造設計を専門としていますが、建築デザインにも関心が高く、旅先で出会った『光の教会』に衝撃を受けたことからこの本は作られました。

筆者が建築従事者ですから建築評論のような本ではなく、施主や現場と設計者との葛藤など非常にリアリティな描写がされています。

建築学科は三つの分野に分かれる

構造を専門とする方がこの本を書いたことがまず印象的でした。
本書でも少し触れていますが、建築を学ぶ学生は一般的には研究室に配属されるタイミングで3つの分野から専門を選択することになります。


まずは『意匠』いわゆるデザインです。
そのほかに『構造』建築の安全性を計算する分野です。
次に『設備』空調・音響・断熱など建物の快適性に関する分野です。


ちなみに僕は構造系。
ワケあって今はハウスメーカーで意匠の仕事をしています。。


結構知られていないのですが、この専門性を選択する段階でそれ以外の分野への意識を切り離してしまう人が多いようです。

僕がまさにそうでした。
もともとは建築家に憧れて設計の授業を頑張っていましたが、どうにも違う。

なんていうか、、楽しくない。。笑
こんなワケで僕はそこそこ好きだった構造系に進むことになり、
それからは意匠に関することはほとんど勉強しなくなりました。


就職して意匠として働くようになってからは必要性に駆られて勉強をしておりますが。
まぁ話は脱線しましたが、とにかくこの3つの分野を飛び越えて興味を持ち、さらに本まで書いてしまうというこの筆者はなかなかすごいんです。
という話。

光の教会の試練

『光の教会』は安藤さんの代表作で、竣工は1989年。
まさに僕が生まれた年なんです。ていうかそんなに古い建築だったですね。。


恥ずかしながら僕はこの建物を見たことがないんです。
もちろんとても有名な建築なので、知ってはいますが、教会という用途もあって何とも見学に行きづらいというのが本音です。

この建築はとにかく低予算で作られたようです。
読み進めていくと分かるのですが、設計をした安藤建築事務所と施工会社の辰巳建設はどちらも赤字だったみたいです。


逆を言えば赤字でもやり遂げたいというとんでもない『熱量』がこの建物を完成させたと言っても良いほど。

低予算過ぎて、壁まで作ったときにお金が足りなくなって屋根を付けないとか、未完の建築としてしまうという案を本気で考えたとか。笑

この現場のもうひとつの問題点は職人の確保でした。
時代はバブル全盛期です。
とにかく都心部では建築ラッシュで大型物件が高い報酬を提示して全国から職人をかき集めているような状態だったそうです。


そんな状況でほぼボランティアのようなこの現場に来てくれる職人がいないことは当たり前のことで。
ですが、安藤建築の仕事を任せられるのは腕の良い大工でないといけないという状況。。笑

さらに悪天候が続いて、ピンポイントで来てくれる予定だった職人の作業が止まってしまうなどのいろんなパプニングもあって工期は大幅にズレこんでしまったようです。
現場監督はかなり胃が痛い思いをしたことでしょう笑。

安藤先生は僕の一度見たことがありますが、とにかくパワフルな方でした。
建築に対する情熱がケタ違いです。


ですが、この本を読んで思ったのはそんな師匠と現場との間をうまく取り持った、設計担当者の水谷さん、現場監督の那須さんがMVPなんじゃないかと思いました。

建築家と施主との間には大きな思いの相違があることが多いようです。
建築家は建築の美しさやコンセプトなどに意識を集中させますが、施主は使い勝手とかもっとソフトの部分に興味があるのが普通です。


僕のような人間では数回提案して受け入れてもらえなかったら、引き下がってしまうのですが、今回の設計は建築家安藤忠雄です。


施主との思いの違いは徹底的に議論して話し合うそうなんです。
しかも安藤先生が打ち合わせに参加できないこともあるのでそこの調整役が設計担当の水谷さんなんですよね、きっと骨が折れる仕事だったのだと思います。


さらに設計の思いはあっても、施工上できそうにないことも浮上してきます。
職人はただでさえ安い賃金で働いているのにメンドクサイ指示が多ければそりゃへそも曲げます。
結果として次は現場と建築家の調整役が現場監督の那須さんになるのです。


建築的な意図なども本書では書かれていますが、何よりも構造設計や現場での大変さを超リアルに描いてくれているのが本書です。


これだけ大変な過程も建築ができた時の達成感で吹き飛んでしまうというのが、建築の大きな魅力でもあるわけですが、それにしてもこの物件に携わった方々には脱帽です

名言集

以下は僕の琴線に触れた言葉達です。

前に木があって通るとき邪魔ならば、木を避けて通ったらええわけで、それをみんな伐りすぎるんですね。

どうも日本人というのは何LDKだとか容れ物にこだわりすぎる。
しかしその容れ物のなかでどのように過ごすか、住まい方というのはあまり問題にされていない。住まいというものを一つのハードもしくは財産として考えすぎているのではないか。だから建ててしまうとそこで建築の命が終わってしまう。

建築家の中にはやたらコムズカシイことを並べ立てる輩がいるが、誤解されるのが嫌で誰これいうような人間は、実はあんまり自信がないものなのだ。

建築は最初のスケッチで骨格が決まってしまうものだ。
一瞬の手の動きが、すべてを決定するのである。
私のスケッチのいくつかの線の重なりは、単なる抽象的なものではない。そこには、実態としての空間があり、またそれが存在し続けようとする意志が込められているのだ。

ノートを片隅に置いて本を読んだものです。
そういう大学ノートがずいぶんあって、シナリオで詰まるとそれを読んでいく。するとどこかに突破口がある。

これは黒澤明の言葉 本書より引用

自分なりの批評の精神を持ち続けたいというふうに思ってますよね。
われわれは文章で書く批評というものはできないので、つくるモノによって批評の精神があるかということを問われながら生きているわけですね。

それでは、この辺で。

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