こんにちは。おにまめです。
今回は建築本【小さな平屋に暮らす】を紹介したいと思います。
僕が自宅を建てることを決めて、平屋の事例を模索していたときに読んだ本です。
表紙の家のライブラリースペースが素敵すぎて、めちゃくちゃ参考にした思い出の一冊になります。
この本は、建築家が手掛けたすてきな平屋の実例6例を紹介しています。
建築本あるあるの難解な言葉ではなく、読みやすくかつ平屋に住む生活の豊かさを想像できる言葉で構成されています。
後半の
「小さな平屋」基礎講座(越坂部幸子)
「林芙美子記念館」を訪ねる(堀部安嗣)
は実例ではなく、設計士からの言葉で建築を語られています。
「小さな平屋」基礎講座 では、平屋を建てることのメリットや、プランニングで注意すべき点などを丁寧に解説してくれています。
「林芙美子記念館」を訪ねるでは、この建築の魅力を建築家の堀部さんが解説しており、建物の美しさやなぜ心地よいのかという本質を紐解いてくれます。
堀部さんは表現や感性が、良い意味で一般人に近い人だと思います。
それでいて本質を突いており、読むたびに『ふむふむ』と頷いてしまいます。
6邸全てを紹介できないので、堀部安嗣さん設計の【我孫子の家】を紹介したいと思います。
他の物件もとても素敵な住まいなので、ぜひ買って見てほしいと思います。
我孫子の家 堀部安嗣
佇まいから考える
この建築を設計するにあたって、堀部さんの設計アプローチが素晴らしいと思います。
以下本書の抜粋です。敷地をこのように表現されています。
一昔前であれば、そこには土管などの土木資材などが無造作に置かれ、子供たちの格好の遊び場や秘密基地になっているような、そんなぽっかりと取り残されたような場所だったのです。このような場所に“家”然とした佇まいは似合わないと思いました。
本書より抜粋
建築とは、新しい建築の創造と、既存の風景の破壊の2面を持っています。
建築を単純な【創造・破壊】に二分できませんが、それでも堀部さんのこの感性は素晴らしいと思います。
お施主さんではなかなか【周辺環境】や【時間軸の変化】には思いが至らないです。
そのお施主さんの要望に対し、設計者が手を加え建物を調整する行為は、設計士の大きな責任だと思うのです。
この建物は、どこか空き地の雰囲気が残る、既製品のコンテナや物置のような箱を三つ並べるという建物外形になりました。
その間にできた空間が中庭としてまた面白い役割を果たしてくれます。
単純な中庭としての心地良さはもちろんのこと、小さな庭を囲むように平屋があるので、屋根の向こうの隣家は見えなくなり、何もない空が広がるのだそう。。
図書室の贅沢
この家は三つ並ぶ切妻屋根のひとつが「図書室棟」になっています。
この空間がとっても素敵!
三棟の間に入る中庭によって離れのような場所になる図書館棟は、「書斎」とは違い、「図書館」という少し距離のある空間としてぴったりだと感じました。
僕もいつか自分の図書館を作るのが一つの夢ですが、この図書館は僕の理想とするところです。
豊かなランドスケープ
この家は、実は造園家のお施主さんです。
だから、外構もセンスの塊。
「施主力」が高い一節がありました。
アプローチの階段右脇の梅の木は、元々ここにあったもので建設中はほかの場所に移して再びここに植えた。
本書より抜粋
「土地の記憶として残したい」というのが住み手の思い。
この庭は昆虫や野鳥の休息の場にもなっている。椿や紫陽花等々、実生の草木には「じゃあ、そこでそのまま大きくなりなさいよ」というのが住み手の流儀。
とのこと。。。。
実務をしていると、
なんて要望をよく受けますが、この有難いお言葉を聞かせたい。笑
元々、自然な生態系があったところに人がお邪魔していることを再認識する必要がありますね。
「小さな平屋」基礎講座 越坂部幸子
平屋は、地面に近いことが特徴です。
自ずと土と親しむ時間が増えるため、軒下空間を計画し半戸外のような部屋を作ると良いそうです。
それにより建物と庭を一体に計画できます。
平屋の中でもさらに「小さい平屋」となると暮らしの場全体を把握しやすくなり、掃除や手入れもしやすくなります。
家族の距離感も近くなり安心感につながると言います。
30坪前後の小さい家は、控えめで可愛らしくて個人的に好きですね。
また「小さな平屋」には、「引戸」が各部屋をうまく繋いだり隔てたりできるので重宝されます。
扉が少ない家はワンルームに見えるので、実面積に比べて広く豊かに見えるというのは実体験としてわかるところです。
林芙美子記念館を訪ねる 堀部安嗣
僕はこの林芙美子記念館を知らなかったのですが、新宿にあって基本的には公開していないようですね。。。
残念です。
年に数回しか公開されないとなるとタイミングが難しいと思いますが、ぜひとも見てみたい建築です。
堀部さんも東京に自分の作品が無かった時には、自分の価値観を伝えるために依頼者に同行してもらったというほどこの建物に惚れ込んでいるようです。
敷地は広大ですが、30坪程度の建物しか建てられないという法規制がこの「小さな家」を形作ったようです。
法規制も住み手によっては良い建築を作る要素になり得るんですね。。
ここはちょっと感激しました。
平面図を見ると、各部屋は正方形で構成されており出入り口が2ヶ所取られているため、動線に淀みがなく広がりが生まれるように工夫されています。
さらに小さい家ながらも通路幅は1200mm取られており、移動にストレスがかからないよう合理的に作られています。
庭との関係も秀逸で、L字に開けた開口部が広がりを演出しており、庭の風景を窓枠ではなく、軒先で切り取られています。
それにより風景が近景・中景・遠景と奥行感が生まれています。
施主である林芙美子さんは作家でありながら、家を作るにあたって以下のような考えを持っています。
東西南北風の吹き抜ける家と云うのが私の家に対する最も重要な信念であった。
本書より抜粋
客間には金をかけない事と、茶の間と風呂と厠と台所には、十二分に金をかける事と云うのが、私の考えであった。
建築家になった方が良いんじゃないかってくらい、コメントが仕上がってますね。笑
この建物ができた時代背景から言うと、男が家を作ると言うのが一般的だったようですが、林さんが主体となって考えたことが、形式に縛られないこの美しい建物が生まれた要因にもなっています。
まとめ
なんだか家づくりに使えるヒントがないかな〜なんて気持ちで買った本でしたが、建築に対する姿勢から考えさせられる本でした。
写真等で非常に読みやすいですが内容は濃厚で大変勉強になりました。
多くの人が家の大きさを気にしているように感じますが、それよりも肩肘を張らない自分の生活に馴染む家というのもとても重要な要素であると再認識できました。