こんにちは。おにまめです。
今回の建築本は【書庫を建てる】です。
著者は僕が超リスペクトする堀部安嗣さん。
この本は堀部さんの手掛けた【書庫の家】を施主の松原さんと堀部さんの、両名の視点から解説されています。
なかなか施主からの解説がある本というのは珍しいものですが、それもそのはず。
施主の松原さんは東京大学の教授です。
エリート施主なんですな。。
ライティングなど朝飯前でございます。
という事で、施主と建築家の思いや解説が描かれているという点で、なかなか面白い内容となっております。
堀部さんの本は数多く読みましたが、金言ばかりで本当に勉強になります。
今回も為になる設計思想が盛り沢山。
それでは早速行ってみましょうー!!
物理的な家ではなく【イエ】
まずは、今回の施主である松原家の家族像と背景を見ていきましょう。
まずは施主である松原隆一郎さん。
先述の通り、偏差値70で施主界のトップに君臨してるんですが、仕事柄たくさんの本を所有しています。
東京で書庫として平家を借りているほどの【本の虫】っぷりです。
次が祖父の松原頼介さん。
このお方は戦中から戦後にかけて活躍した起業家で、この方が松原家の【イエ】としての始まりになります。
神戸で二度の成功を収めていますが、仲間の裏切りやオイルショックなどにより廃業となってしまいます。(無念)
最後が隆一郎さんのお父さん。
作中にも名前は出てきませんが、二度に渡り家業が廃業&家や財産を失っているため、財産を失う恐怖心を強く抱いています。
かなり横柄な性格で、廃業後も昔の裕福な時代の生活を維持するために借金までしちゃうという何ともカイジっぽいお方です。
さて、今回の計画には収納する重要なものが2つあります。
ひとつは、お施主さんの持ち物である【本】。
もうひとつは頼介さんから引き継いだ【仏壇】です。
この2つを収めるための計画が今回の書庫の家となるのです。
きっかけは阪神淡路大震災。
これにより松原家は2度目の家を失うという経験をします。(1度目は廃業時)
この時お父さんが隆一郎さんの反対を押し切り、ハウスメーカーで家を再建してしまったため、その横柄さから家族とも疎遠になってしまいます。
これにより、松原家には祖父の代から受け継いだ物質的な家とともに【イエ】も失ってしまうのです。
そのお父さんがなくなり相続した仏壇は、隆一郎さんにとって唯一、松原家を認識できるものです。
今回収める仏壇は、単に継承したものではなく、そんな松原さんの【イエ】への思いがあるのです。
松原さんと堀部さん
施主の松原さんが堀部さんに設計を頼むのは、なんとこの計画が4回目のようです。(鬼リピート)
これを堀部さんは建築家にとっての【勲章】だと表現しています。
しかも、1度目の依頼は堀部さんがまだ現在のような巨匠ではなく、駆け出しの若手建築家だったときと言うのですから、何とも先見の明と言いますが、感性の鋭い方なのだと察します。
当時まだ実績も少ない堀部建築に「哲学性と詩情を感じる」として、新築を任せるあたりも非常にロックであります。
堀部建築において、【恣意的】という表現を良く目にします。
ここでは必然性がなく秩序だっていないような、人の手が介入しすぎているようなニュアンスを含むイメージでしょうか。
それほど堀部建築にとって自然であることは重要な意味を持ちます。
堀部さんは建築とは【世間(人の感情や営み)】と【自然(人の存在以前にすでにあった世界)】の2つの世界を行き来してつなぐものだと言います。
すでにそこにある自然を切り出していく【彫刻】のような建築であり、これを『神様の隠し物を見つける作業』と表現されているあたりが、もはや僕にとっての神となりうる素晴らしい考え方です。
プランと施工
今回の計画は堀部さんが【竹林寺納骨堂】を設計していた時に同時並行で行っていました。
この納骨堂と書庫には制約条件にこそ大きな違いがありますが、堀部さんは計画として近しいテーマを扱っていることに気づきます。
それは、骨を収めることと本を収めることは本質的には一緒だという事です。
納骨堂は骨を収め先人たちと会話をする空間であり、書庫もまた亡くなった著者の遺言を拝見する空間です。
このように2つのプロジェクトの融合と言うか、化学反応によってこの建築は昇華します。
当初のお施主さんの要望を満たせていない点もあったようですが、熱を込めたプレゼンに対し、
松原さんは「信頼して任せているのだから、堀部さんがいいと思う事を受け入れるしかありません。」と圧倒的施主力とも言える姿勢でその案を採用してくれたようです。
しかしながら、今回の計画は狭小地であり尚且つ、円形の螺旋階段周りに本が並ぶという非常に難しい施工です。
施工業者からしたら、リスクまみれです。
それでもカネとリスクと情熱を抱え、
「クライアントと設計者と施工者、三者が等しく価値観を共有して良いものを作ろうとしているのだから」と施工を請け負った工務店には脱帽してしまいます。
その他、現場で起きた色んなトラブルも本書では収録されています。
このような本を読むと、これぞモノづくりだと胸が熱くなる感覚を覚えます。
まとめ
良い建築は建築家の思想だけではなく、施主との信頼関係、またそれを形作る職人の心意気が多分に影響を与えることを学びました。
堀部さんの本を読んでいると、自分が学生だったときに出会いたかったと思えるような金言がたくさん見つかります。
以前他の本も紹介しているので、良かったら覗いてみて下さい!!
最後まで読んで頂きありがとうございます。
それではまた次回!!